葬儀は誰にでも突然訪れるものであり、平均費用が約105〜200万円と高額なため、支払いに困ることは珍しくありません。家族を亡くした悲しみの中で経済的な問題に直面するのは辛いものですが、様々な対処法や支援制度が存在します。
葬儀費用の支払いが難しくなる状況は大きく2つに分けられます:
- 支払い前の対策:葬儀を執り行う前であれば、家族葬(約105万円)や一日葬(約50万円)、直葬(約20〜40万円)など、予算内に抑える選択肢があります
- 支払い後の対応:すでに葬儀を行った後は、クレジットカード決済や葬儀ローン、健康保険の給付金(最大約7万円)などで現金を確保する方法があります
本記事では、葬儀費用が不足した場合の具体的な対処法を、2025年最新の情報をもとにまとめました。生活保護受給者の方には自己負担ゼロ円で葬儀ができる葬祭扶助制度(最大約20万6,000円)もあります。ご自身の状況に合う方法を選んで、大切な方を送り出すお手伝いができれば幸いです。
葬儀費用が払えない場合にできる対処
葬儀の費用の支払いが厳しくなる要因や背景はさまざまです。特に葬儀は突然訪れるものであるため、十分な準備ができていないことも少なくありません。費用の支払いに困る主な理由は以下の2つです:
- 想定よりも金額が高くなった
- すぐに現金を用意するのが難しい
対処法は、葬儀のタイミングによって大きく異なります:
- 葬儀を執り行う前の段階であれば、予算内に抑える努力や工夫ができる余地があります
- 葬儀を行ってしまった後であれば、金額の変更はできないため、なんとか支払い方法を工夫する必要があります
どちらの状況にあるかを見極め、適切な対処法を選ぶことが重要です。特に「葬儀後に費用が思ったより高額だった」という事態を避けるためには、事前の準備と情報収集が欠かせません。
葬儀前であれば予算内に収まる葬儀プランを検討できますし、葬儀後であれば分割払いやローンなどの選択肢があります。いずれの場合も、焦らずに利用できる制度や方法を冷静に探すことが大切です。
これから、まず「現金がない問題」をなんとかするための方法を紹介し、その後で予算内に抑えるための方法を説明していきます。
急な葬儀費用を工面する方法
葬儀費用の支払いが難しくなる主な要因は「即日に現金で支払う」必要があることです。突然の葬儀でまとまった金額を用意するのは簡単ではありません。ここでは、葬儀費用を工面するための実践的な方法をご紹介します。
親族で費用を分担する
まず考えられるのが、家族や親族で費用を分担することです。
基本的には喪主や葬儀の施行主が責任者となりますが、葬儀は親族も関わる儀式です。葬儀費用の負担が一人に集中することで、経済的・精神的な負担が大きくなることを避けるためにも、声をかけられる親族がいれば、協力を依頼することを検討しましょう。
分担方法の例:
- 兄弟姉妹で均等に負担する
- 親族それぞれの経済状況に応じて負担割合を決める
- 葬儀の手配や手続きを担当する人と費用を負担する人で分担する
事前に話し合いを持ち、明確な金額と支払い方法を決めておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
クレジットカードでの支払いオプション
葬儀費用のクレジットカード決済に対応している葬儀社が2025年現在では大幅に増えています。
クレジットカード払いのメリット:
- 現金を即日用意する必要がない
- カード会社からの請求まで約1ヶ月の猶予期間がある
- 高額決済によるポイント還元を受けられる
- 必要に応じて分割払いやリボ払いが選択できる
ただし、以下の点に注意が必要です:
- お布施など寺院関連費用は現金のみの場合が多いため、ある程度の現金は必要
- カードの限度額を事前に確認し、必要に応じて一時的な増額申請を行う
- 葬儀社によって利用可能なカードブランドが異なる場合がある
葬儀前に葬儀社にクレジットカード払いの可否と対応ブランドを確認しておきましょう。また、分割払いの場合は金利が発生することも念頭に置いておく必要があります。
葬儀ローン・分割払いを利用する
多くの葬儀社では葬儀専用のローンサービスを提供しています。一般的には、オリコなどの信販会社と提携して、分割払いのプランを用意しています。
葬儀ローンの特徴:
- 審査が比較的早く、即日~数日で結果が出る
- 葬儀費用に特化したローンのため、限度額が大きい傾向がある
- 最長24回払いなど柔軟な返済プランがある
- 葬儀社を通じての申し込みで手続きが簡素化される
葬儀ローンを検討する際は、金利条件や手数料、返済期間などをしっかり確認し、無理のない返済計画を立てることが大切です。また、葬儀社によっては後払い制度(コンビニ払いや振込用紙での支払い)を導入しているところもあります。
キャッシング・カードローンで借りる
葬儀社が提供するローンサービスを利用できない場合や、すでに取引のある金融機関を利用したい場合は、一般的なキャッシングやカードローンで現金を用意する方法もあります。
カードローン活用のポイント:
- すでに持っているクレジットカードのキャッシング枠を利用すれば手続きが簡単
- 銀行系カードローンは金利が比較的低い傾向がある
- 早ければ当日~翌日には現金が引き出せる
当然ながら、この方法も返済に利子がつくデメリットがありますが、親族に相談することなく、その場をしのぐことができます。ただし、計画的な返済を心がけることが重要です。
故人の預金の仮払い制度を活用する
2019年7月に創設された「預貯金の仮払い制度」(相続預金の払い戻し制度)を利用する方法もあります。この制度では、故人の葬儀費用や残された家族の当面の生活費として、家庭裁判所の判断を受けずに銀行窓口で預貯金の一部を払い戻すことができます。
制度の概要:
- 相続人が故人の口座から葬儀費用などを引き出せる
- 金融機関ごとに上限額が設定されている(150万円程度が一般的)
- 相続人全員の同意が必要
- 相続人が単独の場合は仮払いではなく解約手続きとなる
ただし、葬儀費用は葬儀終了後の1週間〜10日以内に支払うことが多いため、遺産分割協議がすぐに成立しない場合、この制度が非常に役立ちます。金融機関によって手続きが異なりますので、詳しくは故人が口座を持っていた金融機関に問い合わせましょう。
葬儀費用を予算内に抑える方法
葬儀費用の支払いが難しい場合、まだ葬儀の施行前であれば、費用を可能な限り抑える方法があります。ここでは葬儀費用を予算内に収めるための具体的な方法を紹介します。
葬儀の規模を小さくする
葬儀の費用はさまざまな要因が絡みますが、規模を小さくすることが最も効果的な節約方法です。
広く参列者を集める一般葬では、どうしても100万円から200万円という金額になってしまいます。式場の広さ、装飾、参列者への飲食提供などによって費用が膨らみます。
近年では一般葬の必要性も薄れてきており、葬儀の形式も多様化しています。故人のお人柄や遺族の考え方に合わせて、無理のない規模の葬儀を選ぶことが大切です。
家族葬の費用相場と特徴
家族葬は、近親者や親しい方だけで執り行う小規模な葬儀です。参列者を限定することで、自然と費用が抑えられます。
2025年の最新データによると、家族葬の全国平均費用は約105万円となっています。これに対し一般葬は約200万円前後ですので、半額近くに抑えることが可能です。
家族葬のメリット:
- 親しい人だけの集まりでアットホームな雰囲気で送ることができる
- 遺族の精神的・身体的負担が軽減される
- 費用を抑えられる(50〜100万円程度)
ただし、参列者の範囲をどこまでにするかで悩むケースもあります。「家族葬」という名称から家族だけと思われがちですが、親戚や親友など、誰を招くかは遺族が自由に決めることができます。
一日葬で時間と費用を節約する
一日葬は、通夜を行わず、告別式と火葬を1日で執り行う葬儀形式です。2日間かかる一般的な葬儀を1日に集約することで、式場使用料や人件費を抑えられます。
一日葬の平均費用は50万円前後です。時間的にも金銭的にも負担が少なく、遺族が多忙な場合にも対応しやすい形式です。
一日葬のメリット:
- 1日で全てが完結するため日程調整がしやすい
- 2日間の負担がないため高齢の遺族でも体力的に対応しやすい
- 告別式の時間を柔軟に設定できるケースが多い
一方で、通常の葬儀では通夜への参列者が多いケースもあるため、参列者が限られてしまう可能性があります。また一日葬は比較的新しい葬儀スタイルのため、菩提寺によってはNGとなる場合もあります。事前に菩提寺への相談が必要です。
直葬・火葬式という選択肢
さらに費用を抑えたい場合は、**直葬(火葬式)**という選択肢もあります。これは通夜も告別式も行わず、火葬のみを行う最もシンプルな形式です。
直葬の全国平均費用は20〜40万円程度で、法的に人の死後にしなければならない最低限の対応だけで済ませるものです。
直葬を選ぶ理由:
- 費用面で負担が最も少ない
- 故人の「葬儀はしなくていい」という生前からの希望
- 遠方に住む親族が多く、集まるのが難しい場合
全体の葬儀の約1割がこの直葬という形式を選んでいるというデータもあり、決して珍しいものではありません。ただし、故人との最後のお別れの時間が短くなることで、心の整理がつかないまま見送ることになる点は考慮が必要です。
複数の葬儀社から見積りをとる重要性
葬儀の費用が予算オーバーになってしまう原因のほとんどは、事前の葬儀社との打ち合わせ不足です。同じような内容の葬儀でも、葬儀社によって費用が大きく異なることがあります。
前もってどれくらいの予算で葬儀をしたいのかを踏まえて複数の葬儀社から見積りを出してもらうことで、大きく予算から外れることを防げます。
見積りを取る際のポイント:
- 必須項目とオプションを明確に区別してもらう
- 追加費用が発生する可能性について確認する
- 支払い方法(クレジットカード対応の有無や分割払いなど)を確認する
生前に葬儀の準備をするのは気が引ける方もいるかもしれませんが、残される遺族のためでもありますので、可能な限り見積りをとっておくことをおすすめします。
危篤になったり、お亡くなりになったタイミングで見積りを出そうとしても、じっくり検討する余裕は既にありません。落ち着いた状態で比較検討することが、予算内に抑えるための重要なステップです。
生活保護受給者は葬祭扶助で自己負担ゼロ円で葬儀ができる
葬儀に支払うお金が全く余裕がないという場合、条件を満たせば市区町村から葬祭扶助を受けることができます。生活保護受給者や身寄りのない方の葬儀費用をサポートする制度で、適切に申請すれば最低限必要な葬儀を自己負担0円で行うことが可能です。
葬祭扶助制度の概要と対象者
葬祭扶助は生活保護法の第18条で定められている制度で、生活保護を受けていて葬儀費用を捻出することができない場合に、葬儀費用が給付される仕組みです。これを利用して行う葬儀は「福祉葬」「民生葬」「生活保護葬」とも呼ばれています。
葬祭扶助を受けられる対象者は主に以下の場合です:
- 生活保護受給者が亡くなった場合で、葬儀を行う扶養義務者がいない、または扶養義務者が経済的に困窮している場合
- 生活保護を受給している人が葬儀の喪主となる場合で、葬儀費用を支払えない場合
- 故人に身寄りがなく、葬儀の施主となる第三者(友人や知人など)が葬儀を行う場合
ただし、故人に葬儀費用を賄える預貯金がある場合や、葬儀費用を支払える親族がいる場合には、葬祭扶助の対象とならない点に注意が必要です。葬儀の施主が一般的な葬儀ができる生活水準にある場合は、葬祭扶助制度は利用できません。
2025年最新の葬祭扶助支給額と適用範囲
2025年現在の葬祭扶助の支給額は、地域により若干の差異はありますが、基本的に次の金額が上限となっています:
- 大人(12歳以上):20万6,000円
- 子供(12歳未満):16万4,800円
葬祭扶助の適用範囲は法律で明確に定められており、以下の項目のみが対象です:
- 死亡の検案(死亡診断書の作成)
- ご遺体の運搬
- 火葬または埋葬
- 納骨その他葬祭のために必要最低限のもの
この範囲内で執り行われる葬儀は、一般的には「直葬」や「火葬式」と呼ばれる最もシンプルな形式になります。通常の葬儀で行われる通夜や告別式などの宗教儀式は含まれません。また、僧侶への読経や戒名料なども支給対象外です。
葬祭扶助はあくまでも法的に最低限必要な手続きのみをカバーするものであり、葬祭扶助の範囲を超えた葬儀を行いたい場合は、その差額を自己負担することはできません。そうすると経済力があるとみなされ、葬祭扶助の受給資格を取り消されてしまいます。
葬祭扶助の申請と葬儀の流れ
葬祭扶助を利用するには、葬儀を行う前に申請することが絶対条件です。葬儀後の申請は認められません。申請手続きの流れは以下の通りです:
- 申請者の居住地域の役所・役場の福祉課、福祉事務所、または民生委員に連絡
- 死亡診断書(死体検案書)を用意して葬祭扶助の申請を行う
- ケースワーカーによる条件審査(故人の資産状況や扶養義務者の有無など)
- 承認されたら、葬儀社に連絡して「葬祭扶助で葬儀を行いたい」と明確に伝える
- 葬儀社との打ち合わせ(火葬日時の決定など)
- 直葬・火葬式の執行
- 葬儀終了後、葬儀社から福祉事務所へ葬儀費用の請求
- 福祉事務所から葬儀社へ直接支払いが行われる
申請先は、亡くなった方の住所地ではなく、申請者(喪主)の住民票がある福祉事務所になる点に注意してください。葬儀社のなかには葬祭扶助の申請代行をしてくれるところもあるので、不安がある場合は最初から葬儀社に相談するとスムーズに進められます。
葬祭扶助に関するよくある質問
Q: 香典は受け取れますか?
A: はい、香典は収入とはみなされないため、受け取っても問題ありません。ただし、香典返しの費用は葬祭扶助の対象外となりますので、香典返しをする場合は自己負担となります。
Q: 葬祭扶助で通夜や告別式を行うことはできますか?
A: 葬祭扶助では、通夜や告別式などの宗教儀式を行うことはできません。扶助の範囲は法律で定められた最低限の葬儀手続き(直葬・火葬式)のみとなります。
Q: 読経を依頼することはできますか?
A: 葬祭扶助では僧侶への戒名料や読経料は含まれないため、読経を依頼する場合は実費が必要になります。
Q: 葬儀後の遺骨の取り扱いはどうなりますか?
A: 家族や親族が遺骨を引き取れる場合は、先祖代々の墓に納めることができます。引き取り手がいない場合は、身元不明者の遺骨専用の納骨スペースに納められ、のちに合葬墓にまとめられます。納骨に関する費用は支給対象外です。
Q: ホームレスの方が亡くなった場合はどうなりますか?
A: 身元が判明している場合で、扶養義務者以外(友人や知人など)が葬儀を行う場合も葬祭扶助により火葬を行うことができます。身元不明の場合や遺体の引き取り手がいない場合は、自治体が火葬し納骨を行います。
葬祭扶助制度について詳しく知りたい場合は、お住まいの地域の福祉事務所や福祉課に相談してみましょう。ただし、時間的な猶予がない場合が多いため、葬儀社に依頼する際に生活保護受給者であることを伝え、適切なアドバイスを求めるのが現実的です。多くの葬儀社は葬祭扶助制度に精通しており、申請から葬儀の執行まで総合的にサポートしてくれます。
自治体や健康保険の葬祭費給付制度を活用する
葬儀費用を少しでも軽減するために、故人が加入していた健康保険や自治体の制度を活用することができます。葬儀後の申請で支給される補助金制度があるため、確実に申請して支援を受けましょう。
国民健康保険の葬祭費
故人が国民健康保険に加入していた場合、葬儀を行った方(喪主)は自治体へ申請することで葬祭費の給付を受けることができます。これは葬儀費用の一部を補助するもので、葬儀後に申請する制度です。
葬祭費の金額は自治体によって異なり、一般的には1万円~7万円程度が支給されます。例えば東京23区の多くの自治体では5万円が支給されるケースが多いですが、地方によっては金額が異なります。
葬祭費を受け取るための重要な条件:
- 葬儀を実際に行っていること(直葬・火葬式でも申請可能)
- 故人が国民健康保険の被保険者であったこと
- **申請期限(葬儀を行った日の翌日から2年以内)**を守ること
申請は故人が住民票を置いていた市区町村の役所で行います。葬儀社が代行してくれる場合もあるので、葬儀の打ち合わせ時に確認しておくとよいでしょう。
健康保険の埋葬料・埋葬費
故人が会社員や公務員として健康保険(社会保険)に加入していた場合は、埋葬料または埋葬費が支給されます。国民健康保険の葬祭費と同様の制度ですが、名称と申請先が異なります。
埋葬料と埋葬費の違い:
- 埋葬料:被保険者本人が死亡した場合に、葬儀を行った人に支給
- 埋葬費:被保険者の家族(被扶養者)が死亡した場合に、被保険者に支給
支給金額は一律5万円の場合が多いですが、健康保険組合によって異なることもあります。共済組合や企業の独自制度では、さらに高額の給付を行っている場合もあります。
申請先は故人が加入していた健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)の各支部、共済組合などになります。職場の人事部や総務部に確認すると案内してもらえることが多いです。
自治体独自の葬祭費補助金制度
国民健康保険や社会保険の制度とは別に、一部の自治体独自の葬祭費助成制度が設けられている場合があります。地域によって制度や金額は大きく異なりますが、以下のような例があります:
- 京都府城陽市:補助金額上限 4万円
- 京都府京田辺市:補助金額上限 4万円
- 京都府八幡市:補助金額上限 5万円
また、火葬料の助成を行っている自治体もあります。この場合、火葬場の使用料が減額または免除されることがあるため、事前に地元の自治体に確認しておくとよいでしょう。
これらの助成制度は広く知られていないことも多いため、葬儀の準備段階で地元の自治体にお問い合わせしてみることをお勧めします。
申請方法と必要書類
葬祭費や埋葬料・埋葬費を申請する際に必要な基本的な書類は共通しています:
- 葬儀の領収書(申請者名義のもの)
- 故人の保険証
- 申請者の身分証明書
- 申請者名義の振込先口座情報
- 死亡診断書のコピーまたは埋火葬許可証のコピー
- 申請書(自治体や保険組合の指定様式)
- 印鑑(認印可)
葬祭費の申請手順:
- 葬儀後、必要書類を揃える
- 故人が加入していた保険の申請窓口に申請書を提出
- 審査後、指定した口座に給付金が振り込まれる
給付されるまでの期間は、国民健康保険の葬祭費で約1~2ヶ月、健康保険の埋葬料・埋葬費は約2~3週間程度が一般的です。ただし、自治体や申請状況によって異なる場合があります。
申請忘れが多い制度ですので、葬儀後の混乱した時期でも忘れずに手続きを行うようにしましょう。葬儀費用の一部を補填できるため、確実に申請することをお勧めします。
故人の預貯金と葬儀費用の関係
「故人の貯金があるから葬儀費用に充てられないか」と考えるのは自然なことですが、実際には注意すべき重要なポイントがあります。
預貯金引き出しの注意点
故人名義の口座からの預貯金引き出しには、法的な制限があります。口座名義人が亡くなった場合、金融機関は通常、その口座を凍結します。その理由は、預貯金は**遺産(相続財産)**となり、相続手続きを経て初めて引き出せるものだからです。
キャッシュカードと暗証番号があれば技術的には引き出し可能ですが、これには重大なリスクがあります:
- 相続手続きの複雑化:後の相続手続きで使用分を差し引く必要が生じる
- 他の相続人とのトラブル:了承なく使用すると親族間の争いの原因になる
- 相続放棄の制限:故人の預金を使った場合、相続放棄ができなくなる可能性がある
葬儀社も一般的にこの問題を理解していますので、自己判断での引き出しではなく、まずは相談することをお勧めします。
預貯金の仮払い制度を活用する
2019年7月に創設された「預貯金の仮払い制度」(相続預金の払い戻し制度)は、この問題への対応策として重要です。葬儀費用や残された家族の当面の生活費が必要な場合に、家庭裁判所の判断を受けずに銀行の窓口で預貯金の払い戻しができる制度です。
仮払い制度のポイント:
- 葬儀費用などの急を要する出費に対応できる
- 遺産分割協議が成立していなくても利用可能
- 払い戻し金額には上限がある
- 申請には必要書類の準備が必要
この制度の利用方法については、金融機関に直接問い合わせるか、葬儀社のスタッフに相談するとよいでしょう。
相続と葬儀費用の関係
葬儀費用と相続には密接な関連があります。知っておくべき重要なポイントは以下の通りです:
葬儀費用の相続税控除
葬儀費用は相続税の計算において控除されるという大きなメリットがあります。これにより、相続税の負担を軽減できます。
控除対象となる葬儀費用:
- 葬儀式場や火葬場の使用料
- 棺や祭壇などの葬具代
- 遺体の搬送費用
- 火葬・埋葬に直接関わる費用
控除対象とならない費用:
- 香典返し
- 墓地や墓石の購入費
- 法要(四十九日など)の費用
- 相続人の食事代や宿泊費
葬儀費用を相続税から控除するためには、領収書の保管が不可欠です。葬儀社から受け取った領収書は大切に保管しておきましょう。
遺言での葬儀費用の指定
生前に遺言書で葬儀費用について指定しておくことも可能です。遺言書で「葬儀費用として○○万円を使ってほしい」と明記しておけば、相続人間でのトラブルを未然に防ぐことができます。
結論として、故人の預貯金を葬儀費用に充てる場合は、法的手続きを遵守し、親族間で十分に話し合うことが重要です。不安な点があれば、専門家(弁護士や税理士)や葬儀社のスタッフに相談することをお勧めします。
葬儀費用が払えない問題のまとめ
葬儀は結婚式と違って、計画的に資金を準備する時間が十分にないことが多いため、費用面での不安や困難が生じやすいものです。
葬儀費用への対応策のポイント:
- 事前の準備と知識を持つ:前もって見積りを取り、費用相場を把握しておくことが重要です
- 予算に合わせた葬儀形式を選ぶ:一般葬(約200万円)、家族葬(約105万円)、一日葬、直葬(20〜40万円)など、多様な選択肢があります
- 専門家に相談する:葬儀社のプロに相談し、予算内でのプラン提案を受けることで、不必要な費用を抑えられます
急な費用が必要になった場合の選択肢:
- 親族で費用を分担する
- クレジットカード払い(分割払いも可能な葬儀社が増加)
- 葬儀ローンやカードローンの利用
- 預貯金の仮払い制度(2019年創設)の活用
- 公的支援制度(葬祭費給付、葬祭扶助など)の申請
現代では「立派な葬儀=高額な葬儀」という考え方も変わりつつあります。故人の意向や遺族の状況に合わせた、無理のない形で心のこもった送り出し方を考えることが大切です。不安がある場合は、葬儀社の相談窓口や自治体の福祉窓口など、専門家に相談することをためらわないでください。